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■FigureSkate/フィギュアスケート中級者篇

 ここまでは、スケートの基本滑走に当たる「プレーンスケーティング」について解説しました。ここから先は、本格的なフィギュアスケートの滑りの説明となります。ホッケーやスピードスケートに関しては、たとえ同じ技であったとしても、構造やプレースタイルの違いから、解釈の相違は少なからずあります。フィギュアスケート以外の向きでは、ご参考程度に留めて頂ければ幸いです。

 フィギュアスケートの中級者向けというくくりは実は幅が広く、どこからどこまでというのは表現しづらいのですが、ここでは敢えて「バッククロスが問題なく出来る程度」以上を、中級と致します。この先は、ターンやステップ、簡単なジャンプやスピンが中心となってきます。しかしながら、そうした技は実際に自分の状態を把握しながら、客観的な視点で修正し、完成させていくという地道な作業の繰り返しです。この辺りから、指導者の必要性が格段に高くなってきますし、自主トレーニングだけで習得するのは極めて難しくなってきます。

 となると、ここで書き記す事も、補足的な要素が中心になるかと思われます。当然、解釈の相違もかなり大きくなりますし、必ずしも現実に即したアプローチにならないかも知れません。極力、一般的な方向性を目指しますが、その旨、何卒ご理解頂きますよう、お願い致します。

  最初に、この先の練習に欠かせない教本として、こちらをご紹介します。
 初級者篇で紹介したDVD付きの教本では書かれていない技や、実践に即した細かなポイントが、より具体的に書かれています。技の手順を習う為の本というよりは、練習の為の副読本という体裁です。しかしながら、この域まで到達した方々なら、この本の意義が充分ご理解頂けるでしょう。何よりのお手本は、リンクの上手な方たちです。DVDや実際の競技も参考になるはずです。実際に練習に取り掛かれば、上手な人が教えてくれるかも知れません。場合によっては、本当の壁にぶち当たって、先生に観てもらう必要性を感じる事もあるでしょう。いずれにしても、どのようなアプローチも決して無駄ではありません。

 この本もまた、これで全てを覚えることは不可能です。しかし、疑問や壁にぶち当たった時に、何かしらの答えや、ヒントとなるものが詰まっています。きっと役に立つはずです。

■中級に移行したら

原点回帰しスケート靴を再確認 ~中級者向けのスケート靴

 ここで改めて、スケート靴を見直しましょう。初心者クラスの段階で、マイシューズとコロネーションエース程度のブレードを履いていたなら、当面はそれで充分です。
  もし、まだ貸し靴を利用されているようでしたら、ここから先の技の習得は、極めて困難であると断言します。絶妙なターン、軸の取れたスピン、エッジに深く乗り込む滑走……いずれも、緻密なエッジ感覚が求められます。自分の足にフィットしたマイシューズでないと、こうした高度な技術は難しいと、言わざるを得ません。単に、貸し靴は使用頻度や劣化が進んでいるから、というだけではありません。特にブレードについては、ターン一つ取っても雲泥の差が出ます。そもそも、エッジに付けられているカーブの曲線が大きく異なるのです。

 逆に言えば、この段階に適したマイシューズを既に手にしていたなら、この先もある程度はスムーズに習得できる可能性が高いです。簡単なターンや、軽いジャンプ程度なら、かなりお歳を召した方でも難なく習得できます。

 改めて、シューズとブレードについて触れてみたいと思います。

 通常フィギュアスケートを習う方々用の靴として売られている、ブレードと靴がセットで付けられている物のブレードの多くは、何度も紹介しているコロネーションエースです。シューズについては、実際の所選択の幅が広い上に、足に合う・合わないという人それぞれの問題もあります。使用頻度や、目指す方向性によっても、選択肢は変わってきます。練習頻度、体格、色々な要素を考慮するべきだともいえます。
 しかしブレードについては、この段階での選択肢は、それ程多くありません。コロネーションエース以上のブレードは、まず使いこなせませんし、かなり高いです。逆に、それ以下のブレードは下手をすると、貸し靴よりも粗悪なものもあります。コロネーションエースと同程度という認識で検討して下さい。これは最早、金言であり、伝統でもあり、王道ともいえるでしょうか。

 ちなみに、コロネーションエースと同程度、ということは、即ち他にも同ランクの製品があるということです。比較するのは難しいのですが、上級者ならともかく、この段階での差は然程大きくありません。メーカーやブランドの嗜好は上級者向けでも一致している傾向にありますので、気に入ったブランドやメーカーが見つかったら、次の機会はその上級ブレードを選ぶというのも、よくあるパターンです。一般的に、特にメーカーは同じものを選ぶと、すぐに慣れるという話をよく耳にします。
 ここでは 好みやブランド志向なども考慮し、簡単に紹介したいと思います。

フィギュア・ブレード・コロネーション エース

フィギュア・ブレード・コロネーション エース
価格:26,250円(税5%込、送料別)

■John Wilson コロネーションエース (Coronation Ace)
 くどいほど紹介していますので、ここでの詳しい説明は割愛(笑)
 イギリスの老舗ブランドの一つ、John Wilsonの伝説的な定番ブレードです。コンパルソリー・基本的な練習には最適。
 Rocker: 7" ROH:7/16 Toe Rake Design:Cross Cut Blade Type:Parallel

■Mitchel King プロフェッショナル (Professional)
 こちらもイギリスの老舗、Mitchel Kingの初級~中級向けブレードです。ロッカーカーブはコロネーションエースと同じです。やはり、コンパルソリーやサークルなどの基本練習には最適です。
  Rocker: 7" ROH:7/16 Toe Rake Design:Cross Cut Blade Type:Parallel

■ISE スターリング (STERLING)
 ISEはカナダのメーカーです。アメリカやカナダにもブレードメーカーがありますが、歴史的には比較的新しい会社が多いです。大量生産をしている為か、イギリス製と比べて同程度でも若干安くて入手しやすいです。数字的には、コロネーションエースよりもエッジのカーブが大きく取られています。
 ただ難を言えば、歴史が浅いせいもあり、教室などでも実際の使用による情報がかなり乏しいです。悪いブレードではないと思いますが、価格帯から判断すると、もう一ランク上のStealthあたりのほうが、妥当かも知れません。何れも情報が乏しいので、個人的には強く推奨できません。
  Rocker: 8" ROH:3/4 ? Blade Type:Parallel

■Ultima Jackson レガシー (Legacy)
 ウルティマはアメリカのメーカーです。レガシーはその名の通り、コロネーションエースやプロフェッショナルを意識したものだと思われます。この一ランク下のMirageは、アメリカ製のセット靴によく付属しています。ご推察の通り、Mirageはレジャー用です。同じウルティマで選ぶなら、Legacy以上を推奨致します。

  Rocker: 8" ROH:7/16 Toe Rake Design:Cross Cut Blade Type:Parallel

■John Watts クラシック (Classic)
 イギリスのメーカーで、やはりこのクラスのブレードらしい名前です。価格帯といい、その内容といい、実際イギリス本国では相当の歴史があるのでしょう。日本では取扱が少なく、それ故情報が乏しいです。内容的には、コロネーションエースと同等です。

  Rocker: 7.5" ROH:7/16 Toe Rake Design:Cross Cut Blade Type:Parallel

■Paramount ミッドレベル フリースタイル (Mid Level Freestyle)
 アメリカの比較的新しいメーカーで、ラインナップもあまり格式に拘らない感じがします。文字通り「中級用」と名付けられたブレードです。色が多数あり、星条旗をプリントしたものまであります。遊び心で言えば、アメリカ製にはその傾向が強いです。ただ、数字で判断すると他の老舗ブランドと比較して、それなりの癖があるかも知れません。
  Rocker: 9" ROH:? Toe Rake Design:Smaller Blade Type:Parallel ?

 高度な技に拘らないのであれば、このクラスのブレードが、生涯の伴侶になる可能性も高いです。価格も上級者用より安価ですし、長年の使用で交換を迫られる可能性もあります。私的には、アメリカ製の遊び心のあるブレードは、需要に即した製品ではないかと感じています。上記では紹介していませんが、ウルティマ社のマトリックス(Matrix)というブレードは、刃が交換可能な新しいタイプのブレードです。デザインも斬新で、これまでにないジャンルのブレードです。

 簡単にブレードについて書いてみましたが、いずれにしても滑るのは「あなた」です。ブレードが勝手にターンやスピンをしてくれるわけではありません。若干の差はあったとしても、それは好みの問題です。私が思うには、恐らく「これが一番」だと思ったブレードこそ、結局一番なのです。私もコロネーションエースを長らく使いましたが、確かに安心して練習できました。この安心できるという要素こそ、練習に最も必要なことなのかも知れません。

 長い歴史がそれを支えているという事は、そこには世代を超えた信頼が成立しているとも言い換えられます。最初に選ぶべきなのは、やはり信頼に裏打ちされたものが、最適だろうと考えます。スケートを長く楽しみたいのであれば、そういう道もある。そんなふうに考えられれば、楽しみも広がるのではないでしょうか。

 ちなみに上級者用ブレードとして、アイスダンス用・シンクロ用といったブレードが用意されていますが、必ずしもそれを使わなければいけない、というものでもありません。例えば、アイスダンスの選手でも、フリースタイルの経験が長かったり、フリースタイルの競技もやるという選手は、アイスダンスでもフリー用のブレードを使っていることは珍しくありません。フリー用はできる事が多いので、そのまま使っている選手が多いのです。逆に、ある種に特化するという事は、犠牲にしている要素もあるわけです。アイスダンス用のブレードでアクセルを飛ぶのは、かなり勇気がいるはずです(実例を知りませんので可否は確かでないですが、一度も見た事がありません)。ブレードのテールが切り詰められているので、乗り位置が狭く、高度なエッジワークが必要ですし、速度も出しにくいです。何故そうなっているのかといえば、テールを切り詰める事で、小刻みなクロッシングやパートナーと密着したホールドをしても、左右のブレードが接触しにくいわけです。
  同様に、「エッジカーブの半径が大きい」ということは、「小回りが難しい」ということになります。スピンやターンの乗り位置も当然渋くなりますね。上級者でないと使いこなせないというのは、そういう要素があるためです。 こうしたギリギリの限界を突き詰めた物ですので、その必要性は充分に吟味するのが望ましいと私は思います。

■片足滑走の基本

コンパルソリーがフィギュアの全ての基本 ~ここから先は両足滑走を卒業

 現在では無くなってしまった種目・コンパルソリーですが、その技術がフィギュアスケートの基本なのは、現在でも変わりません。コンパルソリーをしっかり練習することは、後に覚える高度なターンやステップシーケンスを確実に習得するベースとなります。何より、片足滑走練習としては、サークルエイトは欠かせないものでしょう。複雑な図形ももちろん大いに意義のあるものです。この段階で全てを覚えるのは無理ですが、一つ一つを確実に覚えていくことによって、自分がどのくらい覚えたのか把握できますし、得意・不得意も見えてきます。

 余談ですが、得手・不得手はオリンピック選手にもありますので、深刻になる必要はありません。カウンターは得意だがロッカーは苦手とか、右回りより左回りが得意とか、色々見えてくるものです。大切なのは、自分自身を知ることです。ただ漠然と練習をするのでなく、得意・不得意を見出すことが重要と私は思います。何故なら、「得意な技は不得意な技よりもはるかに綺麗に見える」からです。得意であれば、無意識に使用頻度も高くなりますし、練習回数も自ずと増えますから、苦手な技よりも格段に上手になるものです。もちろん競技なら、苦手な技にも挑む必要があります。しかし、得意であることを無視する理由なんてありません。思う存分、得意な技を磨きましょう。得意な技の連続であれば、不得意な技の連続よりも、美しく見えるものです。そうした得意・不得意を知る手段としても、コンパルソリーは客観的に分かりやすく、練習メニューとしても相応しいものです。

片足状態の重心 ここでおさらいですが、この中級以降の技は、基本的に全てが片足滑走で行われます。両足滑走で行う技はかなり特殊で、イーグルとイナバウアー程度しかありません。その片足滑走の基本を支えるのも、コンパルソリーによる練習です。右の図を思い出してください。

 右の図が、片足滑走の基本と申しました。重心線(軸)と同じ位置に、片足をキープします。この状態が、ここから先の全ての滑走の、基本姿勢となるわけです。これが、車のギアで言う「ニュートラル」だと考えてください。この姿勢を基本に、動作を繰り出していきます。基本は重心にあり、片足滑走はその重心線上にエッジをキープすることが重要と申しました。この状態が、フラット滑走~両エッジに乗って直進滑走の状態です。

 さて、片足で円を描くには?? もうお分かりですね。体を円の中心にほんの少し傾けることで、曲がっていきます。エッジワークの説明では、分かりやすく片方のエッジに乗った状態を説明しましたが、無理にエッジを傾けるのではなく、軸そのものを傾けることで、結果として片方のエッジに乗るものなのです。

 もう少し具体的に書きます。片足でのエッジワークで考えると、クロッシングする時の踏み換え動作を、途中で止めてしまえば、片足でのカーブになります。宙に浮いているフリーレッグを、前でも後ろでも、滑走足の横でも構いません、浮かせたまま止めてみてください。その状態をキープ出来れば、片足で円を描き続けることが出来ますね。フラフラしたら、そのままクロッシングを続行すれば安定します。クロスの踏み込みと、戻しの両方で、この片足滑走を練習できます。それぞれ、インエッジ・アウトエッジの片足滑走となります。

コンパルソリーによるエッジワーク 改めて、クロッシングの図のおさらいです。
 重心が傾くのは遠心力によるものと説明しましたが、片足でのコンパルソリーでは、むしろ積極的に重心軸を傾けることによって、円周動作を作っていきます。自転車やバイクが、高速カーブで思いっきり倒し込む映像などを、ご覧になったことはあるでしょうか? 自転車に乗っていれば、カーブで体を円の内側に倒すと、曲がりやすくなることは、誰でも経験があるかと思います。それと同じです。エッジワークとは、そうした軸の移動によって作り出される要素が大きいのです。

 そして、片足のバックの練習ともなると、もうコンパルソリー以外の練習は考えられません。何故なら、一般リンクで漠然と片足バックの練習を続けることは、大変困難だからです。一般滑走の初心者が沢山いる状況では、大変危険ですし、恐怖心もあるでしょう。慣れていれば、チェンジエッジやクロッシングでバックしながらでも人を避けることが出来ますが、最初の段階でそんなことはまず無理です。となると、安全な場所でサークルから練習することになります。このサークルから、エイトのチェンジエッジまでが出来るようになってくれば、一般滑走の外周でも、バックの練習が安心して練習出来るようになります。

 コンパルソリーのサークルエイトは、基本中の基本であり、片足滑走の初歩の初歩です。フォア・バックのクロッシングが問題なく出来るなら、片足滑走はもう手の届くところにあります。クロスの足を浮かせて止めるところから、円を描けるように練習してみてください。最初は姿勢や軌跡が、多少汚くても構いません。片足で右・左と、自由に円が描けるようになれば、ここから先の技の習得も、確実に楽になります。

■ターンの基本

ターンの重心と支点 ~どんなターンも支点と重心の関係は同じ

 ターンにはそのエッジ位置と乗り換える方向などによって、かなりの種類に大別されます。しかし、支点を移動させて重心の軸で回転するという、基本的な原理は足を入れ替えるモホーク・チョクトー以外は同じです。理屈で言うなら、これもキャスターと同じです。キャスターは、進行方向が急に変わっても、クルリと向きを変えます。
  スケートの場合、進行方向は同じです。変わるのは体の向きです。つまり、キャスターの向きを180度変えるんだと解釈すれば、軸と支点の関係を入れ替えれば、クルリと向きが変わるという考えが思い浮かびます。ちょっと強引ですが、下の図のように考えることが出来ます。

 逆方向の状態をスケートの刃に再現させれば、無理なく向きが変わるわけです。では、実際にスケートの刃でそれを行うには、どうしたらよいかを考えてみます。

 図のように、ちょうどキャスターを強引に向きを変えた状態を作り出せば、キャスターと同じように、クルリと向きを変えやすくなる訳です。

 まず、前進するための前傾姿勢を、直立の状態に戻します。これは上半身の状態ですので、頭のてっぺんが足の真上に来るようにすると、考えてください。ターンの為の準備態勢の基本中の基本が直立姿勢です。

 続いて、つま先立ちになる為に、かかとを持ち上げるようにして、支点をつま先に移動します。直立姿勢であれば、この動作もそれ程難しくありません。これで、ターンの為の準備姿勢が整いました。

 次に重要になるのは、上半身です。ターンはスケートの刃の向きを変えることによって、体を回転させる動作と考えられがちですが、実際は体の向きを変える動作そのものなのです。スケートの刃が回転するのは、キャスターが自然に向きを変えるような、そういう状態を作り上げているからに過ぎません。言い換えれば、ターンは体で回るものだということです。
 では、実際に体はどういう状態にすればいいか? ターンの種類によって、体の状態はそれぞれ違うのですが、基本的には下の図のようになります。

 あらかじめ45度、体をひねった状態を作り出しておきます。体を一気に180度回すターンもありますが、それは難しい部類のターンです。あらかじめ45度ひねっておけば、概ね90度回すだけでバックに切り替えられます。向きが変わったら、手の位置を戻して、45度のひねりを解放します。これで、前進からバックに変わっています。

 重要なのは、手の位置が変わらないということです。進行方向に手を伸ばすことにより、体のひねりのコントロールが自由になります。丁度、キャスターが自由に回れるような状態を、作り出すことが出来る訳です。その姿勢で、先程のつま先立ちになります。つま先立ちになれば、キャスターを逆方向に押しているのと同じです。その瞬間に、一気に体を90度回します。体は90度回しますが、足は進行状態によって回す角度が違ってきます。

 3の字を描くスリーターンであれば、二つの弧がくっついた軌跡になります。くっついたところで90度回るのがスリーターンです。ということは、スリーターンであれば、足首を回す角度も90度ということになります。スリーターンは最も基本的なターンで、最も簡単なターンでもあります。これは、体の回転角度と足の回転角度を同じにできるからでもあります。他のターンは理屈上、体の回転角度と足の回転角度が変わってきます。特にカウンターやロッカーはカーブの切替動作もあり、エッジが180度回転するターンだともいえます。

 いずれにしても、このターンが全てのターンの基本となります。

モホークとチョクトー ~広義と狭義で解釈が異なる?

 モホークとチョクトーは、いずれも足を踏み変えるターンです。ターンと同時に右足から左足、左足から右足に踏み変え、体の向きが変わるものです。ちょっとややこしいのですが、広義でのモホークターンと狭義でのモホークターン、つまり一般的なモホークターンとフィギュア的なモホークターンでは、解釈に違いがあります。厳密にターン動作を定義する必要のないホッケーでは、広義に解釈される事が多いようです。また、プレーンスケーティングに於いては広義の解釈で指導が行われている事も多いです。狭義でのモホークターンは、フィギュア的なターンとしての解釈が取り入れられており、特にバックからフォアへの踏み変え動作などは、厳密にはモホークターンと呼ばない事例が多々あります。

 広義の解釈では同エッジの踏み変えターンを、いずれもモホークターンと呼びます(ターンの定義もあいまいですし、面倒なのでそう呼ぶようです)。フィギュアではもう少し細かく細分されますので、その点は知っておいたほうが良いかも知れません。以下、フィギュア的に話を進めて参ります。

 モホークターンにはオープンモホークとクローズモホークの2種類があります。恐らく最初に覚えるモホークターンは、オープンでしょう。最も簡単なモホークターンがフォアイン>バックインのオープンモホークです。このターンは早いうちから覚えられるターンであると同時に、上級者になっても大変お世話になる技です。というのも、ジャンプの導入にこのターンを用いる事が、極めて多いのです。ターンの回転動作がジャンプの導入に乗せやすい(特にサルコウ)というのも、理由の一つです。それだけ、重要な技であるともいえます。逆に、それ以外のモホークターンは通常用いられる事が少ないターンで、高度なステップなどでなければほとんど見られません。それだけ、難易度が高いといえます。つまり、同じモホークでも、オープンとクローズ、インエッジかアウトエッジか、では難易度にかなり差があります。そういう意味でも、フィギュア的なモホークターンはバリエーションが多く、奥が深いターンでもあるのです。

 フォアイン>バックインのオープンモホークは、フォアアウトスリーターンとほぼ同じ動作となります。スリーターンと同時に教わるのが一般的でしょう。簡単なターンですので、スリーターンが出来ればすぐ覚えられますし、モホークを覚えてからスリーを覚えるというのも一興です。ちなみにホッケーでは、結果的に向きが変わっていればどう回ろうと同じなので、選手の好みで使い分けられるようです。

 モホーク・チョクトーターンは、コンパルソリー図形にはないターンでもあります。その点からも、ターンという解釈に於いても異色です。とりあえず、インエッジのオープンモホークが出来れば、この段階では充分かと思います。さらに高度なターンが出来るようになれば、他のクローズモホーク・チョクトーターンも比較的すぐ覚えられます。特にチョクトーは少し難しいターンです。カウンターやロッカーが出来るようになってから覚える方が、早道ではないかと私は思います。

 参考までに、ターンで特に難易度の高いものは、やはりブラケットでしょうか。これも、アウトモホークに近い動きになります。そのどちらも、体と足を大きく回す動作が必要な、難しいものです。上半身・足首と合わせて、腰も強くひねる必要があります。これらが綺麗に出来るようになれば大したものです。アイスダンスであれば是非とも覚えて頂きたいターンですが、フリーでもステップのレベルが格段に上がるターンです。いつかは出来るよう、地道に頑張りましょう。 

■スピンの基本

スピンの軸~スリーターンが一点で回り続ければスピンになる

 スピンの導入は、出来る人ならともかく出来ない人にとっては、一体どこでどういう風に回っているのか、サッパリ分からないものかと思います。そもそも前後に長い鋭いブレード上で、一点で回ることなど出来るのか??という、当たり前の疑問もあることでしょう。これが、ちゃんと回ってしまうから不思議なものです。まず、その分かりにくい導入について、触れてみたいと思います。

 スピンの原点は、スリーターンです。まだスピンが無かった時代のフィギュアスケートで行われていた、連続スリーターンがその大本です。フックスというスリーターンを連続させながら円を描いて行く技が、演技の終了時などに行うピルエッテに進化し、これらの技が現在のスピンの基礎となりました。いずれも、スリーターンを連続させながら複雑な図形を描いて行くものですが、どれも体が回り続けている状態であることが、注目すべき点です。つまり、下手な言い方をすれば、これらの技は軸が滑走し続けるスピンだともいえます。その滑走し続けていた軸を、一点に止めてしまえば、いわゆる現在のスピンになります。

 ややこしい事を色々書く前に、スピンとは何かと一言で言うなら、スリーターンを一点で永久的に続ける状態とも言えるでしょうか。もっと具体的に書くと、フォアアウトスリーターンをし続ける状態ですね。一般的な反時計回りのスピンであれば、左足のフォアアウトになります。ということは、まずスリーターンを習得する事が、スピンへの第一歩という事になります。スリーターンが出来なければ、スピンは無理?ということになりますけど、両足のスピンであれば、スリーターンが出来なくても回れますね。

両足スピン 両足スピンは、スピンがどういう状態なのか知るのには、最も簡単な技です。初級段階からでも多分覚えられると思います。ワンデーの初心者教室でも、たまに教えている先生がいたりしますね。バックが出来るようになれば、数分で回れるようになる簡単な技ですので、是非やってみて下さい。
  やり方を簡単に説明すると、まず直立の両足立ちから、両手を水平に横に広げて、回りたい方向の逆方向に回して上半身をひねります。90度以上ひねったら、一気に両手を元の位置に戻してひねりを解放します。解放した瞬間に、両手を胸の前に持っていき、軸を作ります。この時のブレードの状態を、片足が前進、もう片足がバックの状態にします。両足それぞれが、反対方向に滑ろうとする状態になっていれば、体を中心に一点で回り続けるわけです。なるべく軸をコンパクトにする為に、両足をなるべく近づけます。ブレードの支点を極力接近させると安定し、高速で回れます。右の図が、両足スピンのブレードの状態を表しています。

 両足スピンであれば、片足スピンの導入を覚える前に、スピンの状態を覚えることが可能です。しかしながら、念のため申し上げれば、両足で回るスピンは、技としては認められません。フィギュアは基本的に片足滑走が原則です。スピンも例外でなく、片足で回って初めて、スピンとして認められます。残念ながら、両足スピンは練習の為の技です。とはいえ、誰もが最初に練習するスピンには違いなく、回転する感覚をしっかり覚える為にも、両足スピンは覚えておくべき技術なのは確かです。

片足スピン さて、続いて本格的な片足スピンとなります。
  片足スピンはスリーターンだと最初に書きましたが、乗り位置やきっかけの練習にはやはり、スリーターンから入って行くのがいいです。静止状態から少し滑り出して、スリーターンにポンと入った瞬間を利用して、先の両足スピンと同じ状態で上半身に反動をつけるだけでも、充分練習になります。その時に片足を少し上げておけば、片足で回る練習になります。ただ、どうしても回転力が付けにくい為、長く回れるスピンにはなりません。あくまで練習だと考えて下さい。慣れてきたら、スピンの導入から練習すると良いでしょう。

 スピンの導入には、一般的にはスピンで回りたい回転方向と逆方向のバックサークルから、回転力を溜めていき、両足スピンと同様に上半身を90度程度ひねります。フォアに乗り換えてから一気にスリーターン&ひねりを解放=スピンとなります。これは文章とイラストだけで説明するのは大変難しいので、是非DVDやリンクなどで実際の状態をご覧頂きたいと思います。ジャンプからスピンに入る高度なものもありますが、スリーターンがきっかけというのはどんなスピンでも同じです。長時間回り続けるためには、回転力をしっかりと溜め込む必要があります。その為には、バッククロスは勿論、軸がきちんと取れたターンも必須です。今更ながら、基本が全ての応用に欠かせない事を痛感させられますね。

スピン上半身

 上半身の状態は、アップライトスピン~スタンドスピンであれば、両腕を水平に広げた状態で回り始めます。この時に、遠心力で両腕が引っ張られる感じになります。この引っ張られる感覚を掴むのがコツです。肩の力を抜いて、両腕が同じ力で引っ張られる感じを掴めば、丁度頭のてっぺんが回転する中心になるのです。実際には片足で回っているので、ほんの少し軸足側にずれます。その為、回転する方向に少し頭を向けると、軸が取りやすくなります。一度軸が取れると、回転が中々止まらないほどに安定します。安定したら、手を胸の前にすぼめていきます。軸に近づく事で、回転が一気に速くなります。こうなれば、もうスピン完成ですね。
  アップライト状態はフリーレッグが斜めに上がりますが、これは手と同じ方向に上げると安定します。手と足で一枚の板をイメージすると良いと、いう方もいます。足も遠心力の影響を受けますから、手と同じ方向にするのがコツですね。

 私はこの両腕の遠心力を「天秤状態」などと呼んでいますが、実はほとんどのスピンがこの「天秤状態」を作り出すことによって、軸を生み出しています。シットスピンも良く見ると、お尻とフリーレッグの真ん中に重心があります。つまり、お尻と足で天秤を作っているともいえます。キャメルスピンはおわかりですね。フリーレッグと上半身で天秤になっています。軸に対して、重さが一方に偏っていたとしたら、その方向に飛び出していってしまいます。天秤の両側がつりあっているからこそ、一点で安定して回り続けるのです。シット系のスピンはその軸の取り方がわかりにくい厄介なスピンですが、こうした理屈が見えてくれば、意外と簡単に覚えられるものです。

■ジャンプの基本

跳躍と回転を切り分けて考える~どんなジャンプも氷から浮き上がることが基本

 フィギュアスケートのジャンプがややこしいのは、飛ぶという行為と、回転するという動作の2つを、シンクロさせているためです。初めての人がこれを同時に行おうとすると、大抵は滅茶苦茶になってしまいます。最初の練習段階では、まず「飛ぶこと」に集中します。回転するのは、確実に飛べるようになってから進めていきます。飛べるようになれば、後は回転を増やしていくだけです。ジャンプの難易度は極論すれば、回転の多少でしかありません。つまり、飛ぶことそのものは、シングルもトリプルも同じだということです。この段階では、しっかり「飛ぶ」ことに専念しましょう。

 とにかく最初は、氷から「浮く」「離れる」だけでも怖いものです。でも安心してください。フィギュアスケートは、ジャンプすることを前提に作られています。基本を抑えれば、100%の確率で成功します。選手が挑戦する3回転などは、誰がやっても難しいのです。1回転なら、60歳を超えたお年寄りでも、飛べる人が沢山います。回転数による難易度の差は、そのくらいあるものなのです。
 ではいきなり1回転が飛べるかと申しますと、99%無理でしょう。最初に練習するジャンプは、無回転ジャンプです。これなら簡単ですね。「回転しないんだから楽勝だ」と思いますよね? でもそれが、氷の上となると、そうでもないんですよ。初めてのジャンプは、どんな人でも絶対緊張すると思います。まあ理屈はともかく、まずは滑らずその場で飛んでみましょう。両足で、ひざを曲げて、つま先でジャンプしてみましょう。着地は両足で、そのまま着地です。フィギュアブレードについているギザギザを、初めて本格的に使う瞬間ですね。最初は転倒の原因になった、あの厄介なギザギザが、なんとありがたいことか(苦笑)。爪が氷に刺さって、しっかり上に飛び上がれますし、しっかり着地が出来ますよね。これが、トゥピックの基本的な使い方になります。これは、後に覚えていくあらゆるジャンプでの、トゥピックの使い方の基本になります。

 「その場でジャンプ」が出来たら、次は「滑りながらジャンプ」です。前進でもバックでも構いません。最初はゆっくりでいいので、両足ジャンプを滑りながらやってみます。ただし注意点が一つ。前進での着地で、両足つま先から降りてしまうと、つまづいてしまいます。なので、前進の着地だけ、片足のつま先で着地してください。つま先の着地の直後に、反対の足はかかとで降ります。一般的なジャンプでは右足着地が基本となりますので、つま先を突くのは右足が良いかと思います。右足のつま先が氷に付いたら、左足を横に添える感じで滑り降ります。
 この前向き着地は、競技ではほとんど見ることはありません。競技会で認められるジャンプは、その全てが「後ろ向き着地」なのです。しかし、練習段階では転倒を避けるために、必須の技術となります。回転が足りない場合や、練習段階は、当然前向きになってしまう可能性があります。そんな場合でも、安全に着氷するための技術だからです。競技で認められないとしても、例えばステップで使われる半回転のジャンプや、バニーホップという簡単なジャンプでは、前向き着地を使います。前向き着氷は選手にとっては失敗かもしれませんが、この段階での練習では、失敗でも何でもありません。大切な技術です。

 両足ジャンプが出来るようになったら、今度は「前進の片足ジャンプ」に挑戦です。といってもまだ無回転。片足で跳び上がる、バニーホップの練習です。回転しないので、飛ぶ勇気さえあればすぐに覚えられますが、やっぱり最初は怖いかもしれません。トゥピックの使い方を覚えるつもりで、最初はゆっくり、低くて構いませんので、ちょっとずつ飛んでみましょう。慣れてきたら、徐々に高く飛んでみましょう。
  この前向きのジャンプ、実はアクセルというジャンプの踏み切りと同じです。アクセルは1回転半以上のジャンプを言いますが、競技で飛ぶジャンプのうちでは最も難易度の高いものです。この難しいジャンプと踏み切りが同じというのは、なかなか興味深いですね。

 バニーホップが出来るようになったら、今度は半回転に挑戦しましょう。ここでやっと半回転です。ジャンプに回転を加えるということがいかにややこしいか、やってみるとわかると思いますが、半回転するだけでも、バニーホップと比べて格段に難しくなります。これも、最初は心臓がつぶれるほど怖いものです。先のジャンプと同様に、とにかくゆっくり、小さく、飛んでみましょう。最初の着氷は、両足で構いません。両足でしっかり半回転するのが目標です。後ろ向きに滑りながら着氷が出来るようになったら、もう少しです。片足着氷は、右足だけで着氷することを強く意識しながら、飛びます。右足だけで着氷できるようになったら、もうフィギュアのジャンプは飛べたも同然です。なぜなら、この着氷は今後覚える、全てのジャンプの着地と共通なのです。ここでしっかり覚えておけば、この後どんな難しいジャンプをしようとも、この着地をするのは同じなのです。そう思うと、ちょっと安心しますよね。
  なので、ここでしっかり覚えておきましょう。ちなみにこの半回転のジャンプは「スリージャンプ」と呼ばれます。半回転が丁度「スリーターン」と同じ動作だからです。空中でスリーターンをする、という解釈も出来ますね。

 この先は、1回転のジャンプの練習になりますが、ここから急にそのバリエーションが増えます。1回転ジャンプは、その全てが基本的に、「後ろ向き飛び・後ろ向き着氷」による1回転です。トゥピックを使うもので3種類、エッジで飛ぶもので2種類あります。それぞれ、右足か左足か、どんなカーブで飛ぶか、という差になります。順に挙げていくと、トゥループ・フリップ・ルッツがトゥで飛ぶもの、サルコウ・ループがエッジで飛ぶものです。トゥループとサルコウは、左足で飛びます。それ以外は右足飛びです。フリップとルッツの違いは、乗っているカーブの違いです。これは見分けるのも飛び分けるのもややこしいので、ここではそういうものだ程度に覚えておきましょう(苦笑)。順番としては、トゥループとサルコウが難易度が低いので、このどちらかから覚えていきます。このあたりから、得意・不得意が明確になってくるかと思います。とりあえず、好きな方を集中して練習しましょう。これも最初は無理に回ろうとせず、半回転から1回転の両足着氷、そして片足と、段階的に覚えていくと、やりやすいです。何より、ジャンプは「飛ぶ」ことと「回る」こと、これを同時にやるので、慣れてきてもすぐに滅茶苦茶になってしまいやすいのです。滅茶苦茶になると、もう何をどうやっても変な癖が付くだけです。それをリセットするには、やっぱり基本に戻るのが一番です。回転を抑えて練習すれば、リセットは簡単です。だから、無回転・半回転のジャンプも、バカに出来ないのですね。

 短くまとめて書きましたが、練習には充分に時間をかけてください。ジャンプは、フィギュアスケートにとって最大の難関であり、最も怪我の確率が高い行為でもあります。大人の場合、ここに書いたことを完璧に出来るようになるまでに、2~3年以上かかることもありますし、年配の方であれば体力的に挫折する人も多いです。絶対に無理をしないでください。下手をすると、一生スケートが出来ない体になってしまうことも考えられます。そうならない為には、自分の限界を常に把握することが大切です。それを知るためにも、一歩一歩段階を踏んで練習することが大事なのです。
  焦らずに、進めていきましょう。

つづく  24/02/01 16:00 更新

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